【コラム】生成AIとコミュニティ #12 「多数決は、いちばん楽な逃げ道。合意形成の"はしご"をAIで一段のぼる」 

公開日:2026/7/9

前回は、メンバーが増えるほど場が静かになる「150人の壁」を、ダンバー数を手がかりに考えました。小さな輪に切り分けた先で次に浮かぶのが、増えた声をどう決定に反映するかという問いです。今回は、コミュニティの合意形成にAIがどこまで関われるかを考えます。


■ "投票ボタン" 賛成多数のうしろで、消える声がある


コミュニティがある程度育つと、運営は多数決という便利な道具に頼りはじめます。次の企画、ルール変更、イベントのテーマ。決めることは常に山積みで、アンケートフォームに賛否を並べれば数字はすぐ出ます。ただ数字が出ることと、決められたことは、実は別の作業です。賛成に丸をつけながらも心の中で引っかかっていた一言は、投票結果には残りません。


コミュニティ運営「あるある」:投票で決めたはずなのに、誰も納得していない


賛成多数で企画は決まった。けれど発表した瞬間、コメント欄が静かになる。反対した少数派どころか、賛成した人まで「本当にこれでよかったのか」という顔をしている。数字上の合意と、場の納得は、別物だったと後から気づきます。


■コミュニティ理論で読み解くと:参加には、8段階の"はしご"がある


都市計画研究者のシェリー・アーンスタインは1969年の論文「市民参加のはしご」で、参加のあり方を8段階に整理しました。下段は情報提供や意見聴取にとどまる形式的な参加、上段は権限の一部が実際に住民側へ委ねられる参加です。投票フォームで賛否を聞くだけの運営は、はしごの下から数段目、意見を聞いた実績づくりに留まりやすく、上段の"一緒に決める"感覚には届いていない場合があります。


これまでの対処法:座談会、少数意見の個別ヒアリング


投票の後に座談会を開き、少数派の意見を個別に聞く。丁寧ですが運営者の時間をかなり使う上、声の大きい人の意見に議論が引っ張られやすいという課題も残ります。


■生成AIだとこう使える:自由記述をAIで選択肢に組み直す


賛否だけでなく自由記述欄も用意し、集まった声をAIに渡して賛成派と反対派、それぞれの理由の芯を抽出させます。対立する二択ではなく、双方の懸念を折り込んだ第三の選択肢をAIに提案させると、次の投票で勝ち負けではなく、すり合わせの場をつくれます。


💡 今日から使えるプロンプト例:意見を選択肢に組み直す

あなたはコミュニティの合意形成を支援するファシリテーターです。

以下は、ある議題に対する賛成意見と反対意見の自由記述です。

[賛成意見の自由記述をここに貼る]
[反対意見の自由記述をここに貼る]

これらを読み、次の3点を整理してください。
(1) 賛成派が最も大事にしている価値を一文で
(2) 反対派が最も懸念している点を一文で
(3) 両者の懸念を最低限折り込んだ、第三の選択肢を2案、それぞれ3文以内で

評価や優劣の判断はせず、整理と提案だけをお願いします

出てきた選択肢は、そのまま採決に使わず、まず運営チームで両方の懸念を汲めているかを確認する工程を挟みます。AIは対立の構造を見取り図にする役で、決めるのは最後まで人です。


■ "満票の危うさ" 賛成が多いほど、疑ってみる

プロ野球のオールスターゲームは毎年ファン投票で選手が選ばれますが、票数の多さは必ずしも現場の実感と一致するとは限らず、解説者やコーチの推薦枠が別に用意されているのはそのためです。数の多さと、場の妥当性は違う軸にあるという発想は、コミュニティの意思決定にもそのまま当てはまります。声の総量だけで押し切らず、少数派の理由を選択肢の設計に織り込む一手間が、後々の禍根を減らします。


 決めることは、声を数えることではない

コミュニティリーダーの仕事は、場をつくり、輪を編み、事後を集約し、運営者自身にも伴走させてきました。そこにもう一枚、決を採る前に選択肢そのものを一緒につくる役割が加わります。AIは、対立を数字に潰さず、はしごを一段のぼるための踏み台になります。



【筆者プロフィール】

加藤 翼(Tsubasa Kato)

株式会社qutori CEO / 株式会社ロフトワーク シニアディレクター / BUFFコミュニティマネージャーの学校 創設代表

1990年千葉県柏市出身。「共創」をテーマにしたコミュニティディレクターとして、他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がける。早稲田大学で哲学を専攻後、外資系コンサルなどを経て株式会社ロフトワークに入社。100BANCH / SHIBUYA QWS等の立ち上げに携わる。2017年 株式会社qutoriを創業。

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