
渋谷区が今年もハロウィーン対策を発表したというニュースを見て、正直、少し複雑な気持ちになりました。「GOODBYE BAD HALLOWEEN」というメッセージとともに、ハチ公像の仮囲いや路上飲酒の自粛要請、警備員約185人の配置が並んでいるのを読んで、ああ今年もこの季節かと思わず声が出ました。
僕自身、独立前の会社員時代に一度だけ、仮装もせずに様子を見にセンター街まで足を運んだことがあります。人の熱気と、それを取り囲む柵の硬さが同時にあって、妙に落ち着かない気分になったのを覚えています。
あの違和感は、運営側の「迷惑行為を防ぎたい」という事情と、集まった人たちの「ただ楽しみたい」という気持ちが噛み合っていないことから来ていたのだと、今ならわかります。渋谷区長が「来るなとは言いたくない」と語ったと報じられていましたが、あの場所を設計し直せる人は、いったい誰なのでしょうか。主催者のいない「みんなの場所」を、誰が、どう守ればいいのでしょうか。
■ "タダ乗り" の心地よさ、共有地という視点
無料のDiscordサーバーやオープンなSNSグループには、ルールを読まずに乗っかって、片付けや新人対応は誰かがやってくれると思っているメンバーが一定数います。特定の誰かが悪いというより、場所の性質に起因する現象ではないでしょうか。経済学者ギャレット・ハーディンは、誰のものでもない牧草地が過放牧で荒れる状況を「コモンズの悲劇」と呼びました。
一方、ノーベル経済学賞のエリノア・オストロムは、境界を明確にし利用状況を見える化し、違反に段階的な対応を用意する設計があれば共有資源は持続的に管理できると示しています。渋谷区がハチ公前に監視台を置き、酒類販売店に自粛を依頼するのも発想は近いものです。運営者の対処法も、結局はルールを明文化して固定し、見回り役を置き、段階を踏んで対応する地味な繰り返しに尽きるのだと思います。
■ "内と外" どちらからルールは育つのか
アメリカ・ネバダの砂漠で毎年開催されるアートの祭典バーニングマンは、公式な運営がほぼ存在しないまま、参加者自身の自主性で一時的な都市をつくり上げることで知られています。そこを支えるのが「跡を残さない」「市民としての責任を持つ」などを含む10の原則で、法律ではなく参加者が自ら受け入れる取り決めとして機能しています。
渋谷の対策が柵や警備という外側からの枠組みなのに対し、バーニングマンの原則は内側から育った規範だと言えるでしょう。どちらが正しいというより、場の成熟度によって適したやり方は変わるのだと思います。
■ "更新係" ルールブックを生成AIに任せてみる
ルールは一度作って終わりではなく、トラブルのたびに見直しが必要ですが、改訂作業は地味で後回しになりがちです。生成AIに「ルールの更新係」を任せてみるのはどうでしょうか。過去のもめごとの記録を渡し、曖昧な点と追加すべき一文を洗い出させる使い方です。
☆ 今日から使えるプロンプト例:ルール改訂のたたき台を作る
以下は、私が運営するコミュニティで過去に起きたトラブルの記録です。
既存のガイドライン[既存ガイドラインの本文を貼る]と照らし合わせて、
(1)ルールが曖昧だったために起きたと考えられるケースを指摘してください
(2)追加・修正すべきルール文案を3つまで提案してください
(3)新規メンバーが1分で読める要約を作ってください
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[過去のトラブル記録を貼る]入力例(架空コミュニティ「ヤマネコラボ」の運営ログ):
・新人が他メンバーの作品を無断で再掲載し、注意を受けた(9月)
・深夜の作業通話チャンネルを一人が長時間占有し、他メンバーが使えなかった(9月)
・イベント後の片付け担当が決まらず、数人に負担が偏った(10月)出力例:
(1) 無断転載と通話占有は、既存ガイドラインに明記がなく基準が曖昧だったために起きたと考えられます。
(2) 追加ルール案:①再掲載は本人の許可を得てから、②通話は一人90分を目安に、③片付けは事前に2名をローテーションで担当。
(3) 新人向け要約:「作品は許可を得てシェア、通話は目安時間を意識、片付けは担当制です」ルールを増やすこと自体が目的にならない点が、この使い方の利点です。実際に起きたことから逆算するからこそ、納得感のあるルールになるのではないでしょうか。AIの提案をそのまま採用せず、「これが私たちのルールです」と言い切る一言を運営者自身が添える必要があります。
渋谷区の対策も、バーニングマンの原則も、根っこにあるのは同じ問いです。持ち主のいない場所を、誰が設計し、誰が守るのか。生成AIはそのログを整理し、言葉にする作業を助けてくれますが、最後に線を引くのは、やはり運営者自身の仕事なのだと思います。仮装した人たちが去った11月1日の朝に残るのが、柵の跡だけでなく、来年も使える設計の記録であってほしいと願っています。
【筆者プロフィール】
加藤 翼(Tsubasa Kato)
株式会社qutori CEO / 株式会社ロフトワーク シニアディレクター / BUFFコミュニティマネージャーの学校 創設代表
1990年千葉県柏市出身。「共創」をテーマにしたコミュニティディレクターとして、他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がける。早稲田大学で哲学を専攻後、外資系コンサルなどを経て株式会社ロフトワークに入社。100BANCH / SHIBUYA QWS等の立ち上げに携わる。2017年 株式会社qutoriを創業。
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