
前回は、コミュニティに「参加する側」の体験がAIでどう変わっているかをお話ししました。初めての投稿のハードルを下げ、イベント後の熱量を行動に変える――AIは参加者の側にもじわじわと浸透しはじめています。今回はそこから一段視点を引いて、オンラインとオフラインを組み合わせた体験設計がAIでどう変わっていくのか、現場で見えてきた手触りをお伝えします。
■ “オンとオフの分断”は、ずっと運営者の宿題だった
コミュニティを運営していると、オフラインのイベントで盛り上がった熱量が、オンラインに戻った瞬間に消えてしまう──という現象に何度も出会います。リアルの場で交わした名刺やDMが、結局その夜限りで終わってしまう。逆に、オンラインで活発に発言していたメンバーが、オフ会では誰だか分からないほど静か。こうした「断絶」は、ハイブリッド時代のコミュニティ運営にとって長らく宿題でした。
コミュニティ運営「あるある」:オフ会の翌週、Slackがいつも通り静かになる
イベント当日は写真も会話も盛り上がり、「これからもよろしくお願いします!」が飛び交っていたのに、月曜が来るとチャンネルは平常運転に戻る。「あの熱量はどこに行ったんだろう」と、ひとり画面の前で肩を落とした経験はないでしょうか。
これまでの対処法:写真と議事録を急いでまとめて配信する
当日中にハイライト写真を投稿したり、レポート記事を作成して共有したり。運営者が深夜に編集作業をしながら「鉄は熱いうちに」と熱量の延長戦を仕掛けてきたわけです。ただ、この「全員に同じ情報を届ける」やり方は、参加者一人ひとりの文脈までは届きづらい、というジレンマもありました。
生成AIだとこう使える:「個別の余韻」を翻訳する
AIにイベント音声と参加者リストを渡し、「Aさんが関心を示していたテーマ」「Bさんが投げかけた問い」を抽出してもらう。そうすると、一斉配信ではなく、参加者ごとに違う“続きの一通”を届けられます。オンとオフを縫い合わせる第一歩は、「全員に同じ余韻」ではなく、「一人ひとりの余韻」を運営側が翻訳することなのかもしれません。
💡 今日から使えるプロンプト例:「イベント後の余韻」を個別化する
[イベント名]の登壇内容と参加者の発言を要約した文章を貼ります。
参加者:[名前/関心領域/簡単なバックグラウンド]以下の観点で、参加者ごとに「翌週送るのにちょうどいい一通」の叩き台を作ってください。
・その人が当日もっとも興味を示していたテーマ・関連して紹介できる事例
・人・記事のヒント・1分で読める長さ
・押しつけがましくない言い回し
トーンは[フランクに/丁寧に]でお願いします。出てきた文章をそのまま送るのではなく、AIが拾ってきた文脈を糸口に、自分の言葉で書き直す。「自動化」ではなく「翻訳」として使う──これが運営者の仕事の中心になっていく実感があります。
■ オフラインの「もう一回」をオンラインで再生する
最近のコミュニティでは、リアルイベントの音声や登壇資料をGoogleのNotebookLMに読み込ませ、「Audio Overview(音声概要)」として、二人のホストが対話する数分のポッドキャスト風コンテンツに変換する運営者が増えてきました。出席できなかったメンバーは、移動中に耳で“その場の議論”を追体験できる。当日の手書きホワイトボードを画像認識で「論点マップ」として再構成する手も合わせると、AIの要約はもう単なる議事録ではなく「もう一度その場に立つための装置」になっている。そう思うと、コミュニティの“資産”はイベント当日だけでなく、その後の何ヶ月にもわたって蓄積されていくものへと変わりつつあります。
■ リーダーが設計すべきは“往復の動線”
ハイブリッド時代のコミュニティ設計のキーワードは、もはや「オンラインかオフラインか」ではなく、「その間をどう何度も往復してもらうか」です。オフラインで生まれた問いを、オンラインで持ち寄って育てる。オンラインで温まったテーマを、オフラインで深掘りする。AIはこの往復を翻訳し、記憶し、思い出させる「中間言語」として働きはじめています。場をつくる、文脈を編む、そして“往復を設計する”──リーダーの仕事は、また一つレイヤーが増えたのかもしれません。
次回は、この往復をデータとして可視化する話──AIが「コミュニティの健康状態」をどう測れるようになっているのか──を取り上げる予定です。引き続きご一緒に、新しいつながりの形を探っていきましょう。
【筆者プロフィール】
加藤 翼(Tsubasa Kato)
株式会社qutori CEO / 株式会社ロフトワーク シニアディレクター / BUFFコミュニティマネージャーの学校 創設代表
1990年千葉県柏市出身。「共創」をテーマにしたコミュニティディレクターとして、他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がける。早稲田大学で哲学を専攻後、外資系コンサルなどを経て株式会社ロフトワークに入社。100BANCH / SHIBUYA QWS等の立ち上げに携わる。2017年 株式会社qutoriを創業。
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