【コラム】生成AIとコミュニティ #6 「主催者は、いちばん最後にひとりになる。運営の感情労働を、AIに少しだけ預ける」 

公開日:2026/5/27

前回はメンバー同士の出会いをAIで設計する視点を扱いました。今回は、場をつくる当人、運営者自身に焦点を移します。コミュニティを長く続けるとき、最初に消耗していくのは、たいてい場を愛している人です。その「見えない仕事」をAIにどう託せるか、現場の手触りでお話しします。

■ "見えない仕事"はいつも主催者の足元にある

イベント終わりの会場で、最後にゴミを拾い、忘れ物を見送り、スタッフをねぎらい、明日の段取りを頭で組む。傍からは「楽しそうに運営してますね」と見える時間ほど、運営者の中では小さな気配りが積み重なります。場の空気を守る仕事は、メンバーには見えづらいまま、その人の中だけに残ります。

コミュニティ運営「あるある」:「お疲れさま」と返しながら、自分の疲れに気づかない

イベント直後のスレッドで、メンバー一人ひとりの感想に丁寧に返信していると、いつの間にか深夜になっている。誰よりも先に元気でなければと自分に言い聞かせるうちに、自分の疲れを言葉にする余白がなくなっていく。そんな夜、ありませんか。

コミュニティ理論で読み解くと:それは"感情労働"が積み上がっている状態

社会学者アーリー・ホックシールドは1983年の著作『管理される心』で、職務上「ふさわしい感情」を演じ続ける労働を「感情労働」と名づけました。客室乗務員研究から始まった概念ですが、コミュニティ運営にも色濃く重なります。本心では戸惑っていても、まずは安心の空気をつくる役を担う。役と本心のズレが、見えない疲労として積もるのが感情労働の特徴です。

これまでの対処法:同業者と愚痴を言い合う、思い切って休む

運営者仲間と「あるある」を共有する、月に一度はオフを取る、信頼できる友人に聞いてもらう。どれも効きますが、いずれも「相手の時間を借りる」必要があり、忙しい時期ほど難しいというのが現場の声です。

生成AIだとこう使える:終わったあとの感情を、まず文字に落とす相手にする

帰り道に対話型アシスタントへ「今日嬉しかった三つ、引っかかった一つ」を声で話す。整理や助言は求めず、まず「言葉にする相手」として使う。出てきた要約は、翌日の自分が「昨日の自分は何を抱えていたか」を確認する小さなジャーナルになります。

💡 今日から使えるプロンプト例:イベント直後の運営者ジャーナル

あなたはコミュニティ運営者の振り返りに伴走するコーチです。わたしはイベント主催者として、いま帰り道です。これから音声入力で、今日の出来事や感じたことを話します。

聞き終わったら以下の3つだけしてください。

(1) わたしが言った「嬉しかったこと」と「引っかかったこと」を、それぞれ箇条書きで返す

(2) 引っかかりに対して、明日朝の自分が見直すと役に立ちそうな問いを一つ提案する

(3) アドバイスや励ましの言葉は不要

最後の3つ目を守ることが、いちばん大切です。

ポイントは、AIに「励ます役」を与えないこと。元気づける言葉は、運営者がメンバーに渡している側のものです。AIには裏方の整理だけを頼み、感情は自分の手元に置いておく。「自動化」ではなく「整理の伴走」に絞るのが、長期戦に効きます。

■ "当日の小さな返信"を運営者から少しだけ離す

最近の現場で増えているのが、欠席連絡への返信、初参加メンバーへのお礼、お祝いコメントなど、定型のやりとりをAIで下書きする運用です。文面そのままは送らず、数通分の叩き台を一度に出させて、運営者は名前と一文だけ自分の手で書き換える。叩き台はAIに任せ、最後の一文と固有名詞だけ自分で添える運用が定着しはじめています。

■ 場を愛する人にこそ、伴走者を

コミュニティリーダーの仕事は、場をつくり、文脈を編み、出会いを設計し、事後を集約してきました。そこにもう一枚、自分自身に伴走させる役割を足すのは、決して甘えではないと思います。AIは、いちばん最後にひとり残る人の、控えめな同伴者にもなれる道具です。



【筆者プロフィール】

加藤 翼(Tsubasa Kato)

株式会社qutori CEO / 株式会社ロフトワーク シニアディレクター / BUFFコミュニティマネージャーの学校 創設代表

1990年千葉県柏市出身。「共創」をテーマにしたコミュニティディレクターとして、他分野のコミュニティを横断する事業を多数手がける。早稲田大学で哲学を専攻後、外資系コンサルなどを経て株式会社ロフトワークに入社。100BANCH / SHIBUYA QWS等の立ち上げに携わる。2017年 株式会社qutoriを創業。

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